提案型の家族信託による信託内借り入れ

以前家族信託の信託内借り入れについて記載したが、改めて信託内借り入れについて記載しようと思う。まずはじめに信託内借り入れとは、例えば家族信託を用いて信託財産としたものを担保にして、受託者が受益者のために借り入れをして、信託財産を運用して(賃貸アパート建築など)いくものである。通常の借り入れでは、金融機関からお金を借りる人が自分のため、例えば住宅ローンや車のローンなどのために借り入れをする。

信託内借り入れをするメリットとしては、主に老親の認知症対策である。認知症になると契約そのものができなくなる可能性が高いので、金融機関との金銭消費貸借契約、抵当権設定契約などができなくなり、借り入れができない。しかし、信託内借り入れでは受託者の判断能力があれば契約をすることはできる(融資の審査が通るかどうかは別として、契約行為自体は可能である)。

さて、前置きが長くなったが、現状行われている信託内借り入れのほとんどが、金融機関からお客さんに提案して、金融機関のプランに乗って信託契約を検討し、その契約書を弁護士や司法書士、行政書士などが作成し、信託の登記、借り入れの登記を司法書士がするというものである。つまり司法書士や弁護士がお客さんに直接家族信託を提案してそれに基づいて契約書を作成し、その契約書を金融機関に持ち込むものではない。仮に後者を「提案型の家族信託」と呼ぶとすると、提案型の家族信託で信託内借り入れができる事例はまだまだ少ないと思う。しかし、家族信託のニーズ、認知症対策のニーズが高まっていくと予想される現在においては、士業からの提案型の家族信託で信託内借り入れができるのが、お客さんにとっては一番メリットがあるのではないでしょうか。例えば、費用面や契約の柔軟性など。

①金融機関⇒お客さん⇒士業 ②士業⇒お客さん⇒金融機関

先般、私が作成した家族信託契約書を金融機関にを持ち込み、それに基づいて信託内借り入れをしたのだが、受け入れ先の金融機関はまだまだ少ないように感じられた。某金融機関でおそらく初めての事例ということで、かなりの時間と労力を要したが、快く対応してくださった金融機関の方々に心よりお礼を申しあげたい。今後「提案型の家族信託」を普及させるためには、専門家である士業が日々研鑽し、積極的に各金融機関に家族信託契約を持ち込むような努力をしなければならないと感じた事例であった。